心をつかむ英語ショートスピーチの作り方

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ゴールデングローブ賞、アカデミー賞、グラミー賞など、アメリカの主要エンターテインメント賞の授賞式の季節には「誰がノミネートされた」「どの作品が受賞した」「誰がどんなドレスを着ていた」といった話題で賑わいます。

それらと同じくらい注目されるのが受賞スピーチです。

受賞スピーチは、単なる感謝の言葉ではありません。

受賞者が高揚した感情の中でも、なお自分の思いを言葉にしようとする特別な瞬間です。

だからこそ、そこにはその人の価値観や人生観、人間性が色濃く表れます。

そのため、「どんな言葉を語ったのか」が世界中で話題になることもあります。

この記事では、実際の受賞スピーチを例にしながら、人を感動させるショートスピーチの作り方をお伝えします。

海外で事業を展開していると、挨拶、記念式典、登壇、祝賀会など、思いがけずスピーチを求められる場面も多いもの。

そんな時に使える、一流の話し方のエッセンスを見ていきましょう。

受賞スピーチで意識すべき3つのポイント

1「今に至るまでの物語」を語る

良いスピーチには、単なる感謝の意を示すだけではなく、物語があります。

「なぜ今この瞬間が特別なのか」という物語を語ることで、聴衆は一気に引き込まれます。

2025年のゴールデングローブ賞でのデミ・ムーアのスピーチはその代表例です。

彼女はスピーチの冒頭でこんなことを言います。

“I’ve been doing this a long time, like over 45 years, and this is the first time I’ve ever won anything as an actor.”

「私は45年以上もこの仕事をしていますが、俳優として賞を勝ち取ったのはこれが初めてです。」

45年以上のキャリアで初受賞したという一言で、聴衆は「これはただの受賞ではない」と理解し、彼女の嬉しさ、感動を共感することになります。

さらに彼女は、かつて「ポップコーン女優」と言われた過去、自己否定の時期、そこからの再生を語りました。

これは単なる受賞の挨拶ではなく、「今この瞬間こそが人生の物語のクライマックスだ」と感じさせるスピーチになっています。

「今日に至るまでの葛藤や道のり」のエピソードを1つ入れるだけで、スピーチは一気に深くなり、聴衆の共感を得やすくなるのです。

2 感謝の意を伝える人の名前を並べるだけにしない

祝賀会のスピーチや学会のオープニングセレモニー、新製品や新しいサービスを発表する場では多くの人に感謝の意を示すこともあります。

しかし、ただ名前を羅列するだけでは、聴衆は飽きてしまいますし、集中力も長くは続きません。

大切なのは、「その人が自分にとってどんな存在だったのか」が伝わることです。

それが加わるだけで、スピーチは一気に深みを増し、聴衆を引きつけます。

2026年のゴールデングローブ賞でのテヤナ・テイラーのスピーチは、数人の名前が挙げられていました。また、名前は挙げられていなくても、こういう存在であった人々に感謝をしたいということがわかるスピーチになっていました。

“To my tribe, my grounding force, my joy, my daily reminder that love is an action, not just a word, and everything I do is rooted in that truth. “

「私の仲間であるみなさん、私の心の支えになってくれたみなさん、私の喜びであるみなさん、そして愛は言葉ではなく行動である、また、私のすることすべては真実に根ざしているということを、毎日思い出させてくれたみなさん、ありがとうございます。」

これにより、聴衆は「自分が知らない人の名前」を聞かされるだけではなく、「どんな人々が彼女を支えてきたんだろう?」と想像が掻き立てられるのです。

さらに、彼女は特に一人を取り上げて、このように言います。

To Paul “Let Him Cook” Thomas Anderson, thank you for your vision, your trust and your brilliance. My gratitude is endless. I love you. We love you, and thank you so much for holding space for me and our entire cast.

「ポール・Let Him Cook・トーマス・アンダーソンへ。あなたのビジョン、信頼、そして知性に感謝します。感謝の気持ちは尽きません。愛しています。私たち、みんなあなたを愛しています。私とキャスト全員のための「場」を作ってくださり、本当にありがとうございます。」

ポール・トーマス・アンダーソンという名前を知らなくても、スピーチを聞けば彼がどんな役割を果たしたのか、簡単に想像することができます。

良いスピーチは感謝の意を伝えたい「全員に触れること」ではなく、何人かを象徴として選び、そこに思いを込めることが重要なのです。

3 締めくくりは聴衆へのメッセージ

最後の一文がしっかりと心に響くのが名スピーチです。

2025年のゴールデングローブ賞のスピーチでデミ・ムーアはこう締めくくります。

“You will never be enough. But you can know the value of your worth if you just put down the measuring stick.”

「自分は十分ではないと思ってしまう時があっても、他人との比較をやめれば、自分の価値がわかります」

これは彼女個人の話を超えて、聴衆へのメッセージに昇華しています。

理想的な受賞スピーチは、「自分の物語」から始まり、最後は「みんなへのメッセージ」へと広がっていきます。

テヤナ・テイラーのスピーチは以下のように締めくくられています。

“And last, but most importantly, to my brown sisters and little brown girls watching tonight. Our softness is not a liability. Our depth is not too much. Our light does not need permission to shine. We belong in every room we walk into, our voices matter, and our dreams deserve space. Thank you so much, everybody.”

「そして最後に、そして何よりも大切なのは、今夜ご覧になっている褐色の肌の姉妹たち、そして褐色の肌の小さな女の子たちへ。私たちの弱さは欠点ではありません。私たちの深みは大きすぎるものではありません。私たちは輝くために許可を必要としません。私たちはどんな部屋や場所に入っていってもいいし、私たちの声は重要な声であり、私たちの夢は受け入れられるに値するものです。皆さん、本当にありがとうございます。」

彼女はアフリカ系アメリカ人としてニューヨーク・ハーレムで育っています。

その背景には、人種や外見に対する偏見と無縁ではいられなかった経験もあったのかもしれません。

そうした文脈を踏まえると、このスピーチが持つ意味の重さがより伝わってきます。

そんな彼女は、このスピーチの中で、同じような境遇にいるアフリカ系アメリカ人の女性、褐色の肌を持つ女性に対して、あなたたち自身とあなたたちの夢は、社会に受け入れられるべき多大な価値のあるものなのよ、と訴えているのです。

社会的な分断や移民政策をめぐる議論が続く時代背景の中で、このスピーチに強く心を動かされた人も少なくなかったのではないでしょうか。

すぐ使える「心をつかむショートスピーチ」の型

ここまで名スピーチの共通点を見てきましたが、では私たちが実際に話すときはどう組み立てればよいのでしょうか。

一流の受賞スピーチを分析すると、短いスピーチでも心に残るものには、ほぼ共通した流れがありました。

基本構成はこの3ステップ

1 過去 ― 物語の入口をつくる

いきなり感謝から入るのではなく、「ここに来るまで簡単ではなかった」という一言を添えるだけで、聴衆は一気に話に引き込まれます。

例:

「正直に言うと、ここに立っていることがまだ信じられません。」

「ここまでの道のりは決してまっすぐではありませんでした。」

これは“自慢”ではなく、“物語の入口”です。

2 支えてくれた存在 ― 感謝の“質”を伝える

名前をたくさん挙げるのではなく、「どんな存在だったか」を伝えます。

例:

「いつも黙って背中を押してくれた人」

「私が諦めそうなときに叱ってくれた人」

「私以上に私を信じてくれた人」

これにより、聴衆は自分の人生の中の“その人”を思い浮かべ、スピーチが“自分ごと”になります。

3 未来・社会へのメッセージ ― 余韻を残す

最後は「自分の話」で終わらせず、「今聞いている誰か」に返します。

例:

「今挑戦している誰かに、この言葉が届いたら嬉しいです。」

「遠回りに見える道も、きっとあなたの物語の一部です。」

ここでスピーチは“個人の報告”から“共有の時間”へと変わります。

4 この型を使ったショートスピーチ例

正直に言うと、ここに立っていることがまだ信じられません。

ここまでの道のりは、決して順調なものではありませんでした。

途中で何度も、自分には無理かもしれないと思いました。

でも、その度に支えてくれた人たちがいました。

私を信じ続けてくれた人、黙って見守ってくれた人、厳しい言葉で励ましてくれた人。

皆さんがいなければ、今日の私はありません。

そして今、何かに挑戦している誰かに伝えたい。

不安を感じるということは、本気で向き合っている証拠です。

諦めなければ、その経験は必ず意味を持ちます。

本当にありがとうございます。

このように、構造が整うだけで、具体的な内容がなくても、深い印象を残せるスピーチが作れてしまいます。

心をつかめないスピーチの典型例

良いスピーチを学ぶのと同じくらい、「なぜ響かないのか」を知ることも重要です。

よくあるのは次のようなケースです。

感謝の名前を延々と読み上げる

「えーと」「あのー」が多く、話が進まない

内輪だけが分かる話題

前置きが長すぎる

最後が「以上です」で終わる

例えば、以下のようなスピーチが悪い例と言えるでしょう。

えー、本日はこのような素晴らしい賞をいただき、誠にありがとうございます。

まず最初に、関係者の皆様に感謝申し上げます。〇〇さん、△△さん、□□さん、そしてチームの皆さん、本当にありがとうございます。

今回のプロジェクトは本当に大変でして、えー、いろいろなことがありました。資料作成も多くて、スケジュールも厳しくて、はい。

とにかく皆さんのおかげです。

これからも頑張りますので、引き続きよろしくお願いいたします。

本日はありがとうございました。以上です。

こうしたスピーチは情報はあっても、「感情の動き」がありません。

スピーチが伝わらない原因は、話し方の技術以前に、「伝えたい内容」ではなく「言わなければいけないこと」を話していることにある場合が多いのです。

聴衆が持ち帰れる「たった一つの感情」や「たった一つの言葉」があるかどうか。そこが決め手になります。

一流のスピーチが「短い」理由

名スピーチはなぜ短いのでしょうか。

それは、感動の場面では人の理解力や記憶力が下がるからです。

感情が動くと、私たちは理屈よりも「印象」や「一文」しか覚えられません。

だから一流のスピーカーは次の3点を意識します。

長く説明しない、

同じ意味のことを繰り返さない

強い一文を残す

短いスピーチは内容が薄いのではなく、削ぎ落とされているから逆に強いのです。

優れたショートスピーチとは「準備された言葉」ではなく、「ここまで来るまでに準備されてきた人生」がにじみ出る物語を語ることなのです。

まとめ:心をつかむショートスピーチとは

優れた受賞スピーチは、1)自分の物語があり、2)感謝する人の名前を詰め込みすぎず、聴衆がその人の役割を想像できる内容で、かつ3)最後は社会へのメッセージで終わる、という構造を持っています。

スピーチとは、「感謝の報告」や「喜びの表現」であると同時に、「人生の共有」でもあるのです。

いつかあなたが壇上に立つ時、そのスピーチが単なる儀礼ではなく、あなたという人間の存在力、価値を伝える最高の場になるかもしれません。その日のために、今からでも少しずつ「自分の物語」を言葉にする練習をしてみてはいかがでしょうか。

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Posted by ysenglish